むがしっこ

サドル

イラスト:サドル

むがし、むがし、ずっと山のな、だげ(岳)の八幡岳だが、八甲田山にな、年とって仲間がらはずれだ真白い猿いでたず。んでな、その猿はなぁ、頭いくて頭いくてなぁ。

そごのずっとだげの方にな、炭焼ぐおじさんがいでたず。ごん太という名まえのおじさんでったず。

そのおじさんが山さ行って炭焼いでれば、晩げひょこっとくるずおんぇ、その白い猿が。

んでな、その猿はな、サドル (悟) てへるあだなでたず。なしてサドルてへるてばな、なんでも人の思ったごとあででしゃべるずおんな。んでな、

「え(家)がらなにもってきたなぁ。あぁ、もぢ持ってきたなぁ。おお、みがぎニシン も持ってきてらすか。」てへるずおんぇ。そのごん太っていうおじさんの思ったごとすぐしゃべるず。

「うん、持ってきた。一緒に食うべし」 ってへれば、

「うんうん。」って喜ぶずおんぇ。へばまだ、ごん太、

「なんもかへねったって。一つが二つしかねぇもぢ、こったらサドルさ

かへでらら、わ(私)食うのなぐなる」ど思うずおんぇ。へばまだ猿ぁ、

「あっ。わさかへねってらな。」ってへるずおんぇ。いや、なんでも人の思ったごとさどるず。へんでこった、

「へんだら、んがさ(お前に)半分けでやる」としかだなしにごん太がけでやるず。へば、よろごんで食うず。へんで炭小屋の炉さあだってな、その猿、寒いんだすけに、おじさんど友だぢになったず。

「いや、あそごの山さ、ブドウいっぺなってらじゃぁ。」

猿ぁおへる(教える)ずおんぇ。山中おべでで(おぼえていて)。へばそごさいげば、ブドウ、のろっと(沢山)なってるずおんぇ。

「いや、が(お前)のおかげでブドウいっぺ持ってきたじゃ。わ、これ町さ持ってって まだ何か買ってくるすけ。」といったあんばいで、おじさんもサドルど一生懸命仲よぐしてたず。で、こんたぁ、飴だの、おがしだのさまざま買ってきたず。

それから、味噌だの米だの干し菜おんた野菜だの、山さしょってがねばねぇずおんぇ。へばそら、一ケ月だの、長ぐなれば二ケ月も山にいるず。炭焼ぐんだもの。

へば、かならず、行げば来るずおんぇ。

「ああ、きたな」

「はぁはぁ、今日何食うなぁ」って猿、聞ぐずおんぇ。

「んだな、今日何食ったらいがべな。さぎにまず、まま、(ご飯)たいで、おつゆば煮でな」

「うめぇ。さがなも買ってきてらてば」ってへるずおぇ。

「ほんに、こんちくしょうにかっちゃ、なんもかぐしてられねおんぇ。いっつも、わ、うめの食ってればくるんだおん。ぶったぐがなぁ」と思えば、

「やぁ、わをただぐってへってらじゃ。なに、そごの棒でただぐなって」

「なも、そう思ってねじゃ」

「いや、思ってら、ちゃんとはぁ、わ、おべでら。」

神様どふとずで、ばんばんとあでるずおんえ。いやいやまいってまったず。

「いいじゃ、サドルおめさも、かへるじゃ」

一人で食うだげしかねぇのに、それさもかへねばねぇだもんな。で、こったある時、

「いや、今夜ばがに寒いなぁ。たぎぎいっぺ持ってきておいで、こんたぁ、ごんごど、

もすべし。しばれるおんたもんなぁ」

さぁ、飴玉食ったりおがし食ったりほら、ちゃっこ(お茶)飲んでらず。

「サドル、サドル。んがも火ばもせじゃ」

「うん」

サドルぁな、ごんごと火もしてらのさ、あだってらず。へだっきゃ炉の中がら、ドン!と破裂したずおんぇ。

へだっきゃぁ、その破裂したのせな、さすがのサドルも、こればりぁ知らながったずおんな。なに炉の中さ、生竹もしたずおんぇ。竹もえれば、節と節の中の空気があったまって、ドン!と破裂するべ。さすがのサドルも、

「いやぁ、この竹、破裂するの知らなかった。さすがのわぇもこれにぁ負げだ。はぁ、

今夜がら来れぇ。ぜってぇ来ねすけ。

負げだ、負げだ。

なんでも猿は、人間に負げるじゃなあ」て行ってしまったず。

 

【対訳】

むかし、むかし、八幡岳か、八甲田山に、年をとって群れから離れた真っ白い猿がいたそうだ。その猿はとても頭が良くて良くて。

そしてそのずっと山奥に、ごん太という名前の炭焼きのおじさんがいたそうだ。

そのおじさんが山に行って炭を焼いていると、夜になるとひょっこりとその白い猿が来るのだそうだ。

そして、その猿は、サドル (悟=さとる) というあだ名らしい。なぜサドルなのかというと、なんでも人の思った事を言い当てるからだという。

たとえば、猿は、

「家から何の食べ物を持ってきているかなぁ。あぁ、お餅を持ってきているなぁ。おお、身欠きニシンも持ってきているようだな。」と言うのだ。そのごん太というおじさんの思った事をすぐ話すのだそうだ。

「ああ、持ってきた。一緒に食べよう」というと、

「うんうん」と言って喜ぶのだそうだ。ある時ごん太は、

「何も食べさせることはないか。一つ二つしか無いお餅を、こんな猿のサドルに食べさせていたら、私が食べるものが無くなる」と思ったそうだ。

すると猿は、

「あっ。おれに食べさせないつもりだな。」と言い当てたのだ。つくづく何でも人の思っていることを察することが出来るらしい。

今度は、

「じゃあ、お前にも半分分けてやるよ」

と仕方なくごん太は猿に分け与えると、喜んで食べるそうだ。そうして寒い中、炭小屋の炉の側で二人で暖まっているうちに、その猿とおじさんは、友達になったそうだ。

「おじさん、あっちの山に、ヤマブドウが沢山なってるよ。」

と猿が教えてくれる。猿は山のことを何でも知っているのだ。そしてそこへ行くと、ヤマブドウが本当に沢山なっているのだ。

「お前のおかげでブドウが沢山採れたよ。これを町で売って、また何か買ってくるよ。」といったあんばいで、おじさんもサドルと一生懸命仲よくしていたのだそうだ。そして、飴やお菓子などさまざまな物を買ってきていた。

それからも、炭焼きのことであるから、一ケ月か、長ければ二ケ月も山にこもるため、味噌や米や干し菜などの野菜を食料として、山小屋まで持って行かなければならない。

すると、それを知っている猿はかならず、ゴン太のところへやってくるのだ。

「ああ、きたな」

「ねえねえ、今日は何食べるんだい?」と、猿は聞が聞いてくる。

「そうだな、今日は何を食べようか。先にまず、ご飯を炊いて、味噌汁を作って食べようかな」

と答えると、

「美味しい魚も買ってきているようだね」と猿は言う。

「まったく、こいつにかかっては、 何にも隠しておけないな!いつも、私が美味しい物を食べていると都合良くやってくるなんて悔しいな。痛い目を見せてやろうか」と思うと、

「わぁ、おれを叩くつもりか!そこの棒で叩こうとしているな!」

「何も、そんなこと思っていないよ」

「いいや、思っているはずだ、ちゃんとおれには分かるんだ!」

まるで神様のように、ばんばん言い当てるのだ。ごん太はほとほと困ってしまったそうだ。

「もういいよ、サドル、おまえにも、食べさせるよ」

一人で食べる分しか無いのに、それでも分け与えなければならなかった。

そしてある時、

「いやぁ、今夜はもの凄く寒いなぁ。薪を沢山持ってきておいて、ゴウゴウと燃やして暖かくしよう。まだまだ寒くなりそうだもんな」

猿は、飴を食べたり、お菓子を食べたり、お茶を飲んでいる。

「サドル、サドル。火を燃やすのを手伝ってくれ」

「うん」

しかしサドルは、ゴンゴンと燃える火の側で暖まっていただけだった。すると炉の中から、ドン!と破裂する音がした。

破裂したのには、さすがのサドルも驚き、こればかりはいつもの様に察する事は出来なかったらしい。なんとごん太は燃え上がる炉の中に、(うっかり)生竹を 入れていたのだ。竹を燃やすと、節と節の中の空気が温まって、ドン!と破裂する。さすがのサドルも、

「いやぁ、この竹、破裂するのは分からなかった。さすがのおれもこれには負けた。もう今夜からはここには来ない。絶対来ないからな。

負けた、負けた!

しょせん猿は、人間にはかなわないな」と言ってどこかへ行ってしまったとさ。

【解説】

いくつかある「さとるの化け物」の七戸バージョンといったところです。「さとる」という人の心を読む妖怪の話の多くは怪奇物語風で、これをモチーフにした SF作品、ホラー作品などもありますが、七戸では、超能力を持った猿が、人をからかいに来て逆に驚かされた、というユーモラスな表現で語り伝えられています。

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