上北ものづくりの手

小原 愛子(おばら あいこ)さん

小原 愛子さん

指先までみなぎるチカラ。
前に進もうと扉を押す力が伝わってくるような手。
決して器用では無いからこそ、書道家を目指しながら、とらわれない自由な表現と生き方を模索する。

書道家として、旅する姿に憧れる。小原 愛子さんの作品

次ノ扉

 小原さんの作業部屋は、畳一面に新聞紙と紺色の書道用の下敷きが敷かれ、まさに“書道をするための部屋”という感じだ。
 天井や床の隅から隅まで小原さんの書道空間が詰まっているのを感じ、思わず圧倒された。

 書道との出会いは、幼少の頃。
 書道を学んでいた祖母の影響だった。漢字が好きで、一つ一つの文字に意味があることに感動したと小原さんは話す。
 やりだすととまらない性格で、気がつくと書道が好きになっていた。
 子供の頃は祖母が習う書道教室へ一緒に通い、中学・高校と書道部で学び、大学では書道科で知識と技術に磨きをかけた。

 本格的に“書道”を意識したのは高校時代。
 自分の進路について考えたとき、自身が積み重ねてきた“書道”を選んだ。
 高校生になると訪れた大きな変化、それは “書体”との出会い。
 好きな書体に惚れ込んだ小原さんは、「ひとつがおもしろくなると、他にはなにがあるんだろう?」と探求心が高まった。
 それはどんな書体ですか?と尋ねると、「書いた方が早いですね」と筆を取り、半紙を広げ、うずくまるような姿勢になった。

 するとそこからは空気が変わったように、小原さんの集中がピンと張り詰めるのを感じた。
 手際よく筆先に墨をつけると、 迷い無く筆を滑らせた。ぐっ、ぐっと筆をしならせる音なき音が響く。一線一線丁寧に、半紙の下方へと筆を進めた。

 程なく白い半紙の上に現われたのは“次ノ扉”の文字。
 するとすぐさま「これは無しでいいですか?」と言ってぐしゃぐしゃに丸め、新たに“次ノ扉”と書いた。

―“次の扉”―。

 迷い無くそうしたためた小原さん。彼女は決して言葉数の多くない人柄だが“次ノ扉”という言葉に込められた想い、自身が“次の扉”へ進もうとしている推進力をビリビリと感じたような気がした。

一連の動きはあっというまで流れるように過ぎていったが、とても印象的だった。

小原愛子さん

小原愛子さんの作品

紙袋

紙袋

 2011年3月11日に発生した、東日本大震災。
 未曾有の被害を被った岩手県は小原さんの通った大学がある第二の故郷と呼べる場所。大きな悲しみと混乱があったという。
 それでも「被害をうけていないのに辛い顔をするのはおかしい。出来る事をしよう」と心に決めた。

 しかし提供できる物資も無く、常々募金はしていたものの、もっと自分に出来る事はないか・・・と模索していた。
 そんなとき、友人からの一本の電話。それは、「チャリティー活動で使用する買い物袋に“書道”でメッセージを書いて欲しい」というもの。
 「自分にできることがあった!お役にたてれば!」という思いが湧き、二つ返事で引き受けた。こんな時「書道なら“小原愛子”がいる」と思ってもらえたことも嬉しかった、と笑顔を見せた。

 紙袋に書かれた作品を見て驚いた。
 その一枚一枚に力強い文字が躍り、込められた思いが大きな声で語りかけてくる。
 それは、やわらかい物腰の小原さんのイメージとはあまりにかけ離れていた。
 どこまでも力強く、寄り添う言葉がそこにあった。

作品

 小原さんとの対話の中でにじみ出る彼女の人柄は、人への気遣いとまっすぐな誠実さ。
 作品について様々な質問をさせて頂いたなかで、一生懸命にこたえようとするほど言葉を紡ぐのが難しそうに感じた。
 しかし、作品はそれを汲むかのように大きく“発する”ものばかり。

 言葉、躍動、感覚、季節、伝統、質感、植物、温度。

 小原さんの書を通して、様々なことが感じられる。

小原愛子さんの作品

 そんな作品たちを前に小原さんは、「不器用な自分で良かったのかもしれない」とつぶやいた。

旅する姿に憧れる

 メールのやりとりの中で将来の“夢”を尋ねてみた。

 - – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – -

書道をもっと追求していきたいです。学んでいきたいです。
色々なものに触れ、その時の気持ちを形にするような旅する姿に憧れます。  
多様な形で表現していきたいです。
色々なものがあっていいんだということ、「好き」という気持ちに素直になってみていいんだということを伝えたいです。
そして、それを実現する自分になりたいです。   

 - – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – – - (小原さんのメールより抜粋)

取材時このことについて伺うと、
具体的な目的地を決めず自分が知らない道を行くのが好きで、
何にもとらわれず生きることにずっと憧れをもっていた、と話した。
そんな探求心を小原さんは、
「かいくぐっていく欲」と言葉にした。

「わんつかしか知らないと、わんつかしか表現出来ない」 (※わんつか=少し)
「自分が見たものでしか表現は出来ないから、もっといろいろなものを見てみたいし、見るべきなんだと思う」と小原さん。
様々なものに触れ自分の感覚を磨き世界を広げ、それを自分の書道に表現していく。
これが彼女のいう「かいくぐっていく欲」だ。

どこまでも自由であろうとする自身と作品。
しかし生きていくことは“自由”ではない。
小原さんは自由さを求めながらも、現実の中、逃げず、手を抜かず、誠実に向き合ってきた事を感じさせる。
部屋を埋め尽くす作品たちは、
背筋をピンとのばし、謙虚でありながら、まっすぐ話す凛とした姿そのものだった。

これから時間を重ね、等身大の作品がどう変化していくのか、背中を追いたくなる。

小原愛子さんの作品

小原愛子さん

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